大阪地方裁判所 昭和57年(ワ)8568号 判決 1984年1月27日
原告 太平信用組合
右代表者代表理事 中西信行
右訴訟代理人弁護士 松川雄次
同 松村安之
同 野上精一
右訴訟復代理人弁護士 冨島智雄
被告 大阪府民信用組合
右代表者代表理事 水野忠護
右訴訟代理人弁護士 久保井一匡
同 福原哲晃
同 森信静治
同 宮崎陽子
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金一億二一二万五〇〇〇円及び内金五〇〇〇万円に対する昭和五二年八月一九日から、内金五〇〇〇万円に対する同年五月三一日から、各支払いずみまで年五・二五パーセントの割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
原告は、被告に対し、(一)昭和五二年二月一九日に金五〇〇〇万円の六か月定期預金(満期同年八月一九日、利率年六パーセント、以下(一)の定期預金という。)を、(二)同年二月二八日に金五〇〇〇万円の三か月定期預金(満期同年五月三一日、利率年五パーセント、以下(二)の定期預金という。)をした。
よって、原告は、被告に対し、右各消費寄託契約に基づく元利合計金一億二一二万五〇〇〇円及び(一)の定期預金元金に対するその満期日である昭和五二年八月一九日から、(二)の定期預金元金に対するその満期日である同年五月三一日から各支払ずみまで、臨時金利調整法に基づいて決定された金利の最高限度の利率である年五・二五パーセントの割合の利息金相当の損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
認める。
三 抗弁
1 原告は、昭和五二年二月当時、原告の当時の代表者であった理事長訴外村上甚治郎(以下甚治郎という。)の息子訴外村上義治(以下義治という。)の経営する訴外村上興産株式会社(以下訴外会社という。)との間で貸出取引を行ったが、当時その貸出総額が多額となり、原告の右訴外会社に対して許される法定の与信限度枠を大幅にこえ、監督官庁からその是正を求められていた。
2 そこで、原告は、是正のため、被告に対し、金一億五〇〇〇万円を定期預金するのでこれを資金として被告の名で訴外会社に金一億五〇〇〇万円を貸し出して欲しい旨依頼し、被告は、当時原告と友好的な関係であったので、これを承諾した。
3 そこで、原告から本件定期預金がなされ、昭和五二年二月二八日、残金五〇〇〇万円はすぐ追加して定期預金するので訴外会社に金一億五〇〇〇万円を貸し付けて欲しい旨要請されたので、被告は、原告を信用して、同日、被告が貸主となって訴外会社に金一億五〇〇〇万円を、不動産担保で返済期日昭和五三年二月二八日、利息年九パーセントの約定で貸し付けた。
4 ところが、訴外会社は、期日に返済しなかったばかりか、和議の申立を経て昭和五三年三月には会社更生手続開始の申立を行ない、右手続が開始された。
被告は更生担保権の届出を行なっているが、未だ更生計画に基づく配当は受けていない。
5 以上のとおりで、被告は原告から訴外会社に対する貸付の資金として本件定期預金の預け入れを受けたものであるから、被告は、訴外会社から返済を受けた限度で原告に返済(預金の払戻)をすれば足りるのである。
つまり、対外的、すなわち訴外会社と被告の関係では、被告が貸主であるが、対内的、すなわち原・被告間では、原告が貸主という関係にある。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1について、原告の訴外会社に対する貸出が法定の与信限度額を大幅に超えていること及び監督官庁から是正を求められていたことは否認するが、その余は認める。
2 同2は否認する。
3 同3のうち、被告が訴外会社に対し、昭和五二年二月二八日金一億五〇〇〇万円を不動産担保で貸し付けたことは認めるが、その余は否認する。
4 同4のうち、訴外会社が和議の申立を経て昭和五三年三月に会社更生手続開始の申立を行ない、右手続が開始されたことは認めるが、その余は否認する。
5 同5は争う。
(一) 原告が被告に対し、被告の名で訴外会社に金員貸付を依頼したことはなく、被告は訴外会社の申込により貸付を実施したものである。
訴外会社は融資を急いでいたようであり、被告としても金一億五〇〇〇万円の資金を急に用意することができないところから、原告がそのうちとりあえず金一億円を定期預金として被告の資金手当をしたものにすぎない。
(二) 仮に、原告が被告に対し、本件定期預金をもって訴外会社への貸付を依頼したとすれば、その預金額は金一億五〇〇〇万円でなければならず、原告が残金五〇〇〇万円を預金しなかったのは債務不履行となり、被告は訴外会社に貸出を中止すべきであるのにこれを実行しており、また、定期預金の期間も三か月、六か月ではなく訴外会社の借入金返済期日にあわせた一年にしなければならない。
更に、いかに金融機関同士であるとはいえ、被告は本件定期預金に対し質権設定等の担保処置を講じるべきであるのに、被告はこれをしていない。
被告の主張が事実に反することは右のことから明らかである。
(三) 被告が主張するように金一億五〇〇〇万円の貸主が実質的に原告であるとすれば、結局原告は実質的に限度超過の貸出をすることになり、訴外会社に対する限度額超過貸出を是正するために、原告が被告に右貸出を依頼したとの主張は不当である。
第三証拠《省略》
理由
一 請求原因については、当事者間に争いがない。
二 抗弁について検討する。
1 《証拠省略》を総合すれば、次の各事実が認められる。
(一) 原告は義治経営の訴外会社に貸出を実施していたが、昭和五一年ころ、原告の理事長甚治郎が義治の父であった関係上、原告は、訴外会社から運転資金の融資申込に応じて貸し付けてきたために、法定貸出限度額一億九二〇〇万円をはるかにこえて約八億二〇〇〇万円を貸し付けていた。そして、これが監督官庁の知るところとなり、原告は是正を求められていた。
(二) 昭和五二年一月ころ、原告は、訴外会社から、かなり多額の運転資金の融資を依頼されたが、いかに甚治郎と義治が父子関係にあるとはいえ、それが多額なことと、法定貸出限度額をはるかに超過していたので、これを拒否した。
しかし、甚治郎は、訴外会社に何んとか運転資金を確保させようと考え、親交のある被告の竹原理事長に対し、原告は訴外会社に対する貸付が限度超過して監督官庁の指導を受けているので、短期間でよいから貸し付けて欲しい、三か月ぐらいたったら返済できるだろう、原告が責任を持つからお願いしたい、原告が被告に定期預金をするのでそれで融資してもらいたい旨依頼したところ、右竹原理事長はこれを承諾した。
そこで、甚治郎はこれを原告の専務理事らに伝えて了解を得、一方、竹原理事長も被告の営業部長らに原告から預金があり次第訴外会社に貸し付けるよう指示した。
(三) その後、訴外会社と被告との話し合いの結果、訴外会社は、被告から、昭和五二年二月二八日に一億五〇〇〇万円を返済期日昭和五三年二月二八日、利息年九パーセントの約束で借り受けることが決定され、その際、訴外会社は、同社が所有し広島県内に所在する宅地開発用の土地約五万平方メートルを担保物件として提供する旨申し出た。
(四) そこで、原告は被告に対し、昭和五二年二月一九日に(一)の、次いで同月二八日(二)の各定期預金をしたが、同月二八日には五〇〇〇万円しか預金しなかったので、被告が残金五〇〇〇万円の預金を催促すると、原告は至急預金する旨返答したので、被告は原告を信用して同日訴外会社に一億五〇〇〇万円を貸し付けた。(一億五〇〇〇万円の貸付については当事者間に争いがない。)
(五) その後、訴外会社は返済期が到来しても返済していない。
(なお、訴外会社が和議の申立を経て昭和五三年三月に会社更生手続開始の申立を行なって手続が開始されたことは、当事者間に争いがない。)
以上の認定事実を覆すに足りる証拠はない。
2 前記認定事実からすれば、原告は、訴外会社に対する貸付について、法定貸出限度額をこえており監督官庁から指導を受けていたために、更に、公然と貸付の実行ができないことから、形のうえで法定貸出限度額超過での再度の貸出状態を回避するために、被告に事情を話し被告との間で形式的には被告が貸主であるが、実質的には原告が貸主である旨の合意があったものと認めるのが相当である。
従って、形式的な貸主である被告においては、訴外会社から貸金の返済がないことをもって本件定期預金の返済を拒むことができるものということができるので、この点に関する被告の抗弁は理由がある。
3 ところで、原告は、被告の主張のとおりであるとすれば、(一)原告が残金五〇〇〇万円の預金をしなかったのは債務不履行であり、被告は訴外会社に貸出を中止すべきであったのにこれを実行している。(二)本件定期預金の期日が三か月、六か月ではなく、訴外会社の借入金返済期日にあわせるべきであるのにこれが一致していない。(三)金融機関同士であるとはいえ被告は本件定期預金に対して質権を設定する等の担保処置を講じるべきであるのにこれをしていない。(四)実質的に原告が貸主であるとすると、貸出限度額がさらに超過することになる旨反論しているが、《証拠省略》によれば、原告と被告は、当時非常に友好的な関係にあり、被告は、(二)の定期預金の際に訴外会社に対する貸付書類を作成のうえ預金を待っていたところ、五〇〇〇万円の預金しかなされなかったが、残金五〇〇〇万円については至急預金する旨の原告の言葉を信用したものであること、本件定期預金の返済期日については、訴外会社の被告からの借入債務は、三か月したら返済するから本件定期預金も一応その期間にして欲しい旨の原告の要求通り決められたものであり、被告は、仮に右期間内に返済がない場合には本件定期預金を継続する考えで原告の要求に従ったこと、担保処置を講じなかったことは、原告が被告には迷惑をかけない旨約束し、被告は友好的な関係にある原告から担保を求めるまでもなく返済が受けられるものと原告を信用していたことが認められ、また実質的な貸主が原告とすると貸出限度額がさらに超過することについては、前記のとおり形式的にこれを回避しようとして脱法的になされたものであり、被告の主張事実を認定したとしても、何ら矛盾するところはみあたらない。従って、原告の反論はいずれも採用できない。
三 結論
以上によれば、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 本間榮一)